コラム

【追悼】故・山田格(国立科学博物館名誉研究員)先生のイルカの特別授業

公開日:2024.08.31

LAB to CLASS教材《実物大のイルカをつくろう!》産みの親?

国立科学博物館元動物研究部脊椎動物研究グループ長であった山田格先生が、2024年5月にお亡くなりになられました。鯨類の骨についてお尋ねし、お返事のメールをいただいた直後のことと知り、信じられず、しばらく呆然と過ごしていました。
山田先生は、LAB to CLASSの教材《実物大のイルカをつくろう!》のモデルとなった、東京都御蔵島周辺海域に生息するミナミバンドウイルカの個体識別調査(*注)にも甚大なるご協力をされ、その生態解明に大きな貢献をした研究者のお一人です。

教材《実物大のイルカをつくろう!》のモデルのイルカは、研究会発足当初から海中映像でもしばしば確認され、メンバーから「クシダンゴ」の愛称で親しまれていたイルカでした。1996年に海底に死んで沈んでいたのを調査メンバーが引き上げ、山田先生のご協力により解剖され、大きさや骨格、胃内容物など多くのデータを収集、実年齢や餌生物の解明など、当時その生態がほとんど知られていなかった御蔵島周辺のイルカの実態解明につながりました。

この時のデータを元に制作したのが、LAB to CLASSでも公開をしている教材『環境学習教材キット 実物大のイルカをつくろう!』(制作・頒布:特定非営利活動法人 海の環境教育NPO bridge)https://npo-bridge.org/archives/news/dolphinkitです。

実物大のイルカ作成キット

独特の視点で鯨類の魅力を語るオンライン講座

この教材をきっかけに、より多くの人に日本近海に生息する鯨類のことを知ってほしいとの思いから、2017年2月に山田先生を講師にお招きして実施したのが、LAB to CLASS 『WEB公開授業~イルカを知ろう!』。海洋哺乳類としてのイルカの体の仕組みや、陸上動物を祖先にもつ鯨類の進化の秘密などを、独特の視点も交えて興味深くお話いただきました。 魚と異なる鯨類の尾びれの向きは、当時「泳ぎながら、定期的に海面で呼吸をするため」という説が主流だったのですが、山田先生から「哺乳類でも走っているように泳ぐものと歩くように泳いでいるもので異なる」…という説をお聞きし、なるほど〜と驚いたのが、つい昨日のように感じられます。

その他、空気中と水中の視力の差や、鯨類と人を含むさまざまな動物との頭骨の相違点など、専門知識を持たない一般人にはちょっと難しい話も、山田先生ならではの感性を交えた解説で、とても楽しく聞くことができます。
このオンラインセミナーは今もYouTubeで公開していますので、ぜひ一度ご覧ください。

「WEB公開授業~イルカを知ろう!」

子どもたちに伝われば、社会は変わっていく

bridgeではミナミハンドウイルカの他にも「実物大シリーズ」として、地球最大の生物「シロナガスクジラ」と、地球上で一番小さな鯨類の一つとされる「スナメリ」(日本各地の沿岸域に生息)を制作しています。どちらもデータ提供と監修は山田先生。bridgeの念願である「実物大シロナガスクジラ」のバルーン制作を、最期まで気に掛けてくださり、事あるごとに関連のSNSニュースなどを送ってくださったのが懐かしく思えます。

日本全国、鯨類のストランディングがあればいつでもどこへでも出かける準備をしていた、鯨類研究にかけるその情熱。研究のことになると厳しく時に激しい主張をされる先生でしたが、命に対する独特な優しい視線がとても魅力的で、科学的な知識以外にも多くのことを教えていただき、それがbridgeの教材やプログラム制作にも生きていると思っています。

山田格先生
LAB to CLASSプロジェクトの一翼を支えてくださった山田先生のご冥福を心からお祈りすると共に、「子どもたちに伝えれば社会は変わっていく」という信念で私たちの活動にいつもご協力くださった先生の思いを無駄にしないように、今後も活動を続けていきたいと思っています。

*注:特非)海の環境教育NPO bridgeの創設メンバーが関わっていた『御蔵島バンドウイルカ研究会』(御蔵島イルカ協会・非営利団体アイサーチジャパン協働事業)が、1994〜2003年に行なった調査。御蔵島の方がたや研究者の協力を得ながら、一般社会人や学生のボランティアにより運営されていた。現在は御蔵島観光協会が引き継ぎ、個体識別調査の他、国内外の研究者を受け入れ、野生イルカの生態や生息環境の解明、保護活動などを行っている。