コラム

教材:環境学習としての釣り入門『海の釣り』(2)〜七つの要素

公開日:2018.04.18

 ところで、私が「魚釣り」に魅せられたのは、まだまだ幼かった4歳くらいではなかったかと思います。家族旅行で訪れた伊豆の海。宿の近くの防波堤で、メジナと云う魚を釣りあげたときです。10センチほどの小さい魚でしたが、ハリに掛かってダイレクトに手に伝わって来る「命の躍動感」に驚き、さらに親や周りにいた大人にほめてもらった喜びが忘れられず、飽きることなく、すでに半世紀も続けているのです。そして、職業までも「釣具屋さん」になってしまい、「好き―」という範囲を超えて、ついに、『フィッシングメッセンジャー』なんて名乗って今に至っています。

 そこでフィッシングメッセンジャーとして、釣りの指導をしてくださる方にぜひとも知っていただきたいのが、環境教育としての釣り入門『海のつり』でまとめた「七つの要素」です。今回は、LAB to CLASS『WEB公開授業~潜入水族館!水族館で魚釣り!?』の内容に対応させながら、「七つの要素」を具体的に紹介させていただきたいと思います。

 

要素1)釣る魚を想像する―。

 もっとも環境教育的な要素が詰まったセクションです。そして、その実践にあたり、指導者と参加者が一緒に想像力を発揮して学べるように考えた教材が「魚のごはんは何だ?」です。

 魚の口の形状はおおよそ、それぞれの魚が食べている餌(ごはん)が食べやすい形になっています。この教材では、魚が餌にしている『生きものごはんカード』を数枚提示して、食べやすい「魚の口」を想像し、自由に描いてもらいます。その絵を見て指導者は解説をする訳ですが、必ずしも本当に食べている魚の口の形や生態を知っている必要はなく、「そうなんだぁ」と子どもたちと一緒に学びながら進める方が、釣りへの期待感も高まると思います。

 なので、本当にそれらを食べているお魚のカードも用意しました。これらに対応した「指導者資料」の情報をもとに、段ボールでつくった「漁港」に生きものを配置していくと、釣る場所を何処にしようかということが、よりイメージしやすくなると考えています。


要素の2)仕掛けをつくる―。

 釣る魚がイメージできてきたら、基本の“ウキ釣り”の仕掛けづくりに取り掛かってください。魚の口や生息場所を想像しながら、どうやったら釣れるか…楽しい作業です。

“ウキ釣り”の仕掛けを推奨することにも意味があります。釣りの仕掛けの目的は「魚の口に確実に餌を届ける事」です。ウキ釣りは、ウキを上下に動かすことで魚のいる水深までの距離を変えられること。釣りの初心者でも、比較的に簡単につくれること。そして、トラブルが少ないというメリットがあり、初めての魚釣りには最適な仕掛けだと言えます。

 冊子『海のつり』に示した『釣りの七つ道具』も参考にしてください。

 

 

要素の3)釣る―。

 今回のWEB公開授業は、1月という寒い季節の開催だったこともあり、館内に釣り掘りをつくり「食育」にも取り組んでおられる『アクアマリンふくしま』のご協力をいただきました。釣る魚も「必ず釣れる」ことを前提に、日本の自然界には存在しないギンザケを釣ることにしました(プログラムでは別途実物のギンザケを観察し、生態などの解説もしました)が、実際に指導される場合には、より安全で釣りやすい季節を選び、地域にいる魚を対象に行っていただきたいと思います。

 

 

要素の4)魚をしめる。さばく―。

 ここでは、活きた「魚」から、食材としての「肴」に変えていく過程を体験します。このとき大切なのは、その過程で「魚の体のしくみ」や、「内臓の機能・役割」を“観察すること”にウェイトをおくことです。瞬時に“しめる”ことができれば、さばいたときにはまだ心臓も動いており、「食べる」という命を繋ぐ行為には、必ず他の「命」の犠牲が伴っていることに気付きます。

 

要素の5)魚を料理する―。

 人間が他の生きものと「食」に対して絶対的に異なるのは、食材を料理(調理)して「食事」にできるということです。食材に対しての感謝を持ち、おいしく食べるための味付けや盛り付けを通し、「食の大切さ」に気付くのです。公開授業では、最もシンプルな「塩焼き」にチャレンジしました。塩の振り方や串の打ち方、焼き方などにも注目してください。

 

要素の6)食べる―。

 自らの手で命をいただいた魚が、自分の体をつくっている―。これこそが「いただきます」という言葉の意味につながります。さっき自分が釣った魚を、自分で食べることは、それまでの体験が難しければ難しいほど愛おしく、“食べられることが当り前”ではないことに気付き、さらに「人間も食物連鎖の一員である」ことに気付くことができるでしょう。

 

要素の7)後片付けをする―。

「釣り場に残してきて良いのは、思い出と足跡だけ」という言葉があります。不可抗力でゴミになってしまった場合は仕方ないにしても、ゴミが海の環境に与えるインパクトは決して小さくはなく、他の生きものの命を奪ってしまう場合もあります。だからこそ、釣り場も、調理した場所も、きちんと綺麗に片付けて「釣り」の活動を締めくくることが大切です。これを行ってこそ、環境教育としての「釣り」が、完結するのだと信じています。

 

「釣り」はそのものが海の環境を知る活動です。そのことを多くの方に知っていただき、実施していただきたいと思い、試行錯誤をしながらなんとかここまでたどりつきました。

 教材を公開した後で、おそらくいろいろな改善点や課題が新たに見つかることと思います。それをその都度改善して、よりよいプログラムをつくっていきたいと思います。

 今回、アクアマリンふくしまをはじめ、多くの方のご協力を得、教材作成と公開授業という貴重な機会をいただきましたこと、大変うれしく感謝をしております。

 

「LAB to CLASS」の教材が広く環境教育推進のために活用されることを祈って!

フィッシングメッセンジャー 野澤 鯛損