コラム
【活用事例】実物大のイルカを作成して生物多様性を学ぶ
公開日:2024.07.10
浪崎直子(実践女子大学非常勤講師)
概要
2024年5月14日(火)と21日(火)に、実践女子大学生活科学部現代生活学科の専門科目「フィールドリサーチb」にて、LAB to CLASSの教材《実物大のイルカをつくろう!》《餌の餌の餌は何?》を活用して、生物多様性と海洋プラスチック問題を学ぶ講義を実施しました。この講義では、自然を観察し理解するための環境調査手法を学ぶことを一つの目標としています。
内容は、「実施報告書(PDF)」からもご覧いただけます。
最初に5〜6人のグループに分かれて、型紙と黒いプラスチックシートから、一頭の実物大イルカの模型を作成しました。実物大イルカが完成した後は、御蔵島バンドウイルカ研究会のDVDを見ながらイルカの生態調査を模擬体験。最後には、《餌の餌の餌は何?》教材を活用して、海の食物連鎖と海洋プラスチックごみ問題について体験的に理解を深めました。
2つの教材を活用したことで、グループで役割分担をして協力しながら物事を進めることの大切さと楽しさ、そして海洋プラスチック問題の深刻さを感じてくれたようです。
⚫︎テーマ:生物多様性と海洋プラスチック問題を学ぶ
⚫︎対象:大学生 29 名(実践女子大学「フィールドリサーチb」の講義として実施)
⚫︎会場:実践女子大学日野キャンパス3号館
⚫︎実施時期:2024年 5月14日(火)21日(火)各100分×2回(全200分間)
⚫︎使⽤教材:
実物大のイルカをつくろう!
餌の餌の餌は何? PART1:北の海/ PART2:磯・外洋
活動の様子
1.東京にすむ野生のイルカ
↑2024年5月に東京都小笠原村の沿岸で出会ったザトウクジラ(写真提供:小笠原自然探検隊ONE)
講義直前のゴールデンウィーク、講師の浪崎が東京都の小笠原でエコツアーに参加し、野生のハシナガイルカ50頭とザトウクジラ2頭に出会ってきたという話題から講義をスタート。東京都の伊豆七島の一つ御蔵島には、野生のミナミハンドウイルカ約150頭が生息し、ドルフィンスイムが島おこしの一躍を担っていることも紹介しました。身近な東京の海にも、野生のイルカがすんでいることを実感できたのではないかと思います。
2.型紙とゴミ袋から実物大イルカを作成
↑LAB to CLASS のサイトからダウンロードした型紙を貼り合わせているところ
5〜6人のグループに分かれて、型紙と黒いプラスチックシート(ゴミ袋)から、1頭の実物大イルカを作成しました。中には家庭科の先生を目指している学生さんもいて、「型紙を置いてチャコペンのようにクレヨンを使えばいいんですね」「まち針があったらもっと綺麗にイルカを作ることができるのに」といった声も。理科だけでなく、家庭科としてもこの教材は活用できるのかもしれないと、学生さんから新たな視点を提示いただきました。
3.実物大イルカの完成
↑完成した胴体に胸びれをつけているところ
↑完成した実物大イルカ(2歳くらいの大きさ)
イルカの胴体が完成した後は、胸びれ・尾びれ・背びれの3種類のヒレをつけていきました。「初めてイルカの尾びれが魚類と違って上下に動くことを知った。」「魚とは尾びれの構造が違うということを、間違えたからこそよく理解できた」「背びれはなんのためにあるんだろうと疑問に思った」などの感想を寄せてくれました。イルカの目や鼻、ふんの位置も相談しながらつけて行きました。完成後は、ドライヤーで空気を入れて膨らませました。「ふんって口のこと!?」「鼻が頭の上にあるなんてびっくりした」と驚きの声が多数でした。
「思った以上にイルカを作るのが大変だったけど、みんなで楽しくできたのでよかった」「グループで役割を決めて工作に取り組む活動は久しぶりだったのでとても楽しかったです!!」「グループのみんなで協力して絆がめばえたと思う」という感想もあり、楽しんで取り組んでくれたようです。
4.野生イルカの生態調査を模擬体験
↑御蔵島バンドウイルカ研究会のDVD
実物大イルカが完成した後は、御蔵島バンドウイルカ研究会のDVDを見ながら、野生のイルカの生態調査を模擬体験しました。イルカの調査は、イルカの体やひれの形と傷などの特徴をもとに個体識別するという話から、各グループで作成したイルカをいまいちど見比べてみると、体のフォルムやひれのつき方などにそれぞれ特徴があることがわかりました。オスとメスの見分け方を学び、自分たちで作ったイルカの性別を決めて、クレヨンでおへそと生殖孔を描きました。メスが授乳して子育てを行うこと、集団で育児を行うイルカの社会構造、海洋ごみであるレジ袋を遊び道具にするイルカの姿などもDVDで学ぶことができました。
5.海の食物連鎖と海洋プラスチックごみ問題
↑海の食物連鎖を学ぶカード《餌の餌の餌は何?》右上のカードがマイクロプラスチック
最後には、《餌の餌の餌は何?》教材を活用して、海の食物連鎖と海洋プラスチックごみ問題について体験的に理解を深めました。イルカをはじめとする鯨類は、海の食物連鎖の頂点に位置する動物であること、植物プランクトンから動物プランクトン・小型動物・大型動物・私たち人間へと続く「食べる-食べられる」の関係の中で命が支えられていること、そしてマイクロプラスチックが食物連鎖を通じて生物の体内に取り込まれ、海洋生態系に深刻な影響を与えていることを学びました。
実施後の感想
今回講義を実施した、実践女子大学生活科学部現代生活学科は、現代社会の諸課題とその解決法を、「環境」「メディア」「⾃⽴」の3つの領域から横断的に学修し、持続可能な社会の担い手になる人材を育成することを目指しています。私自身、学生の頃から20年環境活動に関わってきて、“意見が異なる他者と協力して物事を進めていく力”は、これからの社会で何よりも大事だと感じています。実物大イルカを作る過程は、グループの仲間と協力して物事を進めることの大切さ、面白さを実感できる、とても良い教材だと改めて思いました。