コラム
スナメリと通じ合ったあの日のこと
公開日:2018.06.15
関谷 福蔵 (兵庫県立いえしま自然体験センター)
神秘的なスナメリ
毎年春になると、「いえしま自然体験センター」の前の湾内で、スナメリを数回目撃する。
船を操船していると海面がヌメーッと盛り上がり、「あっスナメリだ!」と思った瞬間、わずかに背中だけを見せてスナメリは海に潜っていく。そして、数秒後にまたヌメッと姿を見せる。近づくともう姿はない。
いえしま自然体験センターの風景
あの日、嵐の海で
私にとってスナメリは、子どもの頃からとても親しみがあり、神秘を感じている生き物だ。
ある日の日暮れ前、父の操船で母と小さな船に乗り、大嵐の中を大波に揺られて島から島へ渡っていた。小学生だった私は、船の物陰で恐怖をこらえながら時折、帰る島の明かりと父の顔をのぞいていた。それはまさに希望の光だった。
そこに母の声。「あっ、スナメリ!」。すぐさま私は恐怖を忘れ、海に目をやった。はっきりとは見えなかったが、船のすぐ横でスナメリがヌメッとわずかに背中を見せたのが分かった。
見えたのは一瞬で「あれがスナメリかー」という程度だったが、励ましてもらったようでとてもうれしかったのを覚えている。私の勝手な思いこみだが、それ以来スナメリとは通じ合っているような気がするのだ。
瀬戸内海でも減っているスナメリ
スナメリは水深50m以内の浅い海の、海底が滑らかな岩場もしくは砂地を好む。瀬戸内海は浅瀬が多いためスナメリが生息しやすい環境だったが、海に人の手が入り生息数も生息域もかなり減少している。
スナメリに限ったことではないが、自然の生き物は生活環境を自分でコントロールすることができない。人のエゴで環境を変化させれば、必ずどこかに歪みが生まれ、犠牲が出ることを私たちはいつも頭に入れておかなくてはならない。
大浦湾のスナメリ(写真提供:長崎県自然環境課)
*スナメリ:鯨類のなかでいちばん小さい種のひとつといわれている。浅い海を好んで生活し、岸から5kmぐらいの間に生息。日本沿岸でも見られる場所が多く、瀬戸内海のほか、有明海、大浦湾、瀬戸内海、伊勢湾、千葉県銚子、鹿島灘、松島湾などで観察できる。