コラム
水に生きるイルカたち(1)
公開日:2017.01.27
帝京科学大学生命環境学部自然環境学科准教授/鯨類研究者 篠原正典
ティリクム(Tilikum)が死んだ……
ティリクムが死んだ……。
このニュースに気を払った読者はおられるでしょうか?
ティリクムと名付けられたオスのシャチが、つい先日(1月6日)、米国のシーワールドで死にました。推定36歳とのことでした。とても残念な話なのですが、女性トレーナーを殺してしまったシャチとして有名で、その背景には一体なにがあったのかを探ったドキュメンタリー映画『Black Fish』(2013)は、米国映画アカデミーの長編ドキュメタリー賞にもノミネートされるなど米国内では大きな話題となりました。
一方で、日本ではこの映画は公開すらされていません。イルカ・シャチ飼育の先達である米国では、水族館での劇場のような「ショー」はしない、繁殖をさせてはならない(不幸な犠牲をこれ以上増やさない)、という態度が主流で、ハワイでの野生イルカとの遊泳に関しても禁止の方向でNOAA(アメリカ大気海洋庁)が検討を進めています。このようなイルカ類やシャチ(以下、本コラム中ではイルカと記します)との新しく持続的な関係の模索のなか、日本国内におけるイルカの捕獲や飼育に対して厳しい意見(時にテロ的行動を含む)があることをご存じの方は多いと思います。
しかし、私たちは彼らを飼育することが本当にできないのでしょうか? 彼らと付き合えば必ず害を与えてしまうのでしょうか?
私は飼育の部外者であり研究途上の身でありますから、この疑問にはっきりと答えることができません。しかし、イルカを知ろうと努力してきた研究者の一人としてひとつ言えるのは、イルカが好きだという人のなかに、イルカをきちんと知ろうとしていない人が少なからずいるということです。
彼らが音をとても良く利用しているだろうことはご存知の方が多いと思います。では、彼らは視覚で世界をどうみているのでしょう。「色」を感じているでしょうか? 臭いや味はどうでしょう? 身近なイヌやネコのことはご存じだと思いますが、イルカだと気にしたことがないかもしれません。
このコラムではまず、こうした話題を平易に紹介することからはじめたいと思っています。次回は、私がテーマの一つにしている「対物行動(物を扱う行動)」の視点から、イルカたちの触角についてご紹介します。
ヒトと鯨類は持続可能な付き合いを続けることができるのだろうか?